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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)11524号 判決 1973年11月05日

原告 中川鉱油株式会社

右代表者代表取締役 中川七蔵

右訴訟代理人弁護士 谷口欣一

同 野口三郎

同 高津戸成美

同 真木吉夫

被告 安全石油株式会社

右代表者代表取締役 川鍋秋蔵

右訴訟代理人弁護士 内田文喬

同 小坂志磨夫

右訴訟復代理人弁護士 小池豊

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金四五〇万円およびこれに対する昭和四四年一一月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

「一、原被告はいずれも石油類の販売業を営む会社である。

二、原告は昭和三三年六月三〇日被告から東京都葛飾区奥戸二丁目一、二九一番の一宅地五三坪一合四勺のうち三三坪五合三勺の転借権(土地所有者・賃貸人訴外合資会社山内商店、賃借人・転貸人訴外川村要蔵)を、転借権譲渡についての右訴外会社の承諾は被告において昭和三四年一二月末日までに得ることと定めて買受けた。

三、被告は右期限までに右訴外会社の承諾を得る義務を履行しなかったため、原告は右訴外会社から前記土地を明渡すよう訴求され、やむなく昭和四三年一〇月二三日右訴外会社に対し、金四二五万円の賃借権設定料を支払って前記土地につき右訴外会社との間に賃貸借契約を締結し、同時に右土地の賃借人であった前記訴外川村要蔵に対し示談金として金二五万円を支払うのを余儀なくされた。

四、よって被告の前記土地の転借権譲渡につき承諾を得る義務は履行不能に帰したから、原告は被告に対し、右義務の履行に代る損害の賠償として右合計金四五〇万円およびこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四四年一一月一日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と述べ、被告の抗弁に対する答弁として、「原告の本訴提起の時は、すでに被告の前記土地の転借権譲渡につき承諾を得る義務の履行期である昭和三四年一二月末日から五年を経過していることは認める。その余は否認する。」と述べ、再抗弁として

「原告は昭和四三年一〇月二三日訴外合資会社山内商店および訴外川村要蔵との間に前記賃借権設定料および示談金の支払を内容とする訴訟上の和解をするまでは、被告の前記義務の不履行による損害発生の有無および金額を知ることができず、被告に対し損害賠償請求権を行使することができなかった。

右は権利の行使につき法律上の障害があったときに当るから、原告の本訴請求権の消滅時効は昭和四三年一〇月二三日まで進行を開始しなかったものである。」

と述べた。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因に対する答弁として、「原被告がいずれも石油類の販売業を営む会社であること、被告が昭和三三年六月三〇日原告に対し、東京都葛飾区奥戸二丁目一、二九一番の一宅地五三坪一合四勺のうち三三坪五合三勺の転借権を、転借権の譲渡についての承諾は被告において昭和三四年一二月末日までに得ることを定めて売渡したこと、昭和四三年一〇月二三日原告が訴外合資会社山内商店に対し賃借権設定料として金四二五万円を支払い、右土地につき賃貸借契約を締結するとともに、訴外川村要蔵に対し示談金として金二五万円を支払ったことは認める。その余は否認する。被告の右土地の転借権譲渡につき承諾を得る義務の不履行と原告の右出捐との間には因果関係がない。すなわち原告は被告からの右土地の転借権譲受につき承諾を得るために右出捐をしたのではなく、前記訴外会社との間に右土地を含む東京都葛飾区奥戸二丁目一、二九一番の一宅地五三坪一合四勺の土地につき、既存の老朽化した木造建物を取毀し、あらたに堅固な建物を建築し所有することを目的とし、期間を昭和四三年一〇月一日から三〇年と定めて賃貸借契約を締結し、その賃借権設定料として金四二五万円を支払い、かつ右賃貸借契約締結にともない、賃借権を失うこととなった訴外川村要蔵に対し示談金として金二五万円を支払ったものである。」と述べ、抗弁として

「一、原被告間には昭和三六年一二月二二日被告の前記土地の転借権譲渡につき承諾を得る義務を消滅させる旨の合意がなされた。

二、原告の本訴提起の時は、すでに被告の右転借権譲渡につき承諾を得る義務の履行期である昭和三四年一二月末日から五年を経過しているから、原告の本訴請求権は時効によって消滅しており、被告は本訴において右時効を援用する。」

と述べ、原告の再抗弁に対する答弁として、「否認する。」と述べた。

証拠 ≪省略≫

理由

原被告がいずれも石油類の販売業を営む会社であること、原告が昭和三三年六月三〇日被告から東京都葛飾区奥戸二丁目一、二九一番の一宅地五三坪一合四勺のうち三三坪五合三勺についての転借権(土地所有者・賃貸人訴外合資会社山内商店、賃借人・転貸人訴外川村要蔵)を、転借権譲渡についての承諾は被告において昭和三四年一二月末日までに得ることと定めて買受けたことは当事者間に争いがない。

次に被告の抗弁のうち消滅時効の主張についてみるに、原告の本訴提起の時はすでに被告の右転借権譲渡につき承諾を得る義務の履行期である昭和三四年一二月末日から五年を経過した後であることは当事者間に争いがない。

そこで次に原告の再抗弁につき判断するに、原告は昭和四三年一〇月二三日までは被告の右義務の不履行による損害の発生の有無および金額を知ることができなかったから、原告の被告に対する損害賠償請求権の消滅時効は右時点までは進行を開始しないと主張するけれども、原告の右損害賠償請求権は、被告の前記義務の履行に代る損害の賠償を求めるものであって、その消滅時効の起算点は本来の義務の履行を請求する権利の消滅時効の起算点にまで遡るべきものであり、そして本来の義務が履行不能に帰した場合の損害の発生の有無および金額が不明であることは、右義務の履行を請求するについての法律上の障害にはあたらないというべきであるから、原告の右主張は失当といわざるを得ない。

そうすると原告の被告に対する本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当というべきである。

よって原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義明)

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